中2の「ファームステイ」で
一次産業の現状を肌で感じる

巣鴨中学校・高等学校

スーパーエリートと過ごし情熱に火をつける6日間巣鴨サマースクール

体感型の行事が多いことで知られる巣鴨中学校・高等学校。海、山、産業現場、海外体験まで多岐にわたる行事は、「巣鴨らしさ」を考えながら、いずれも教員がゼロから手作りしているものだ。そこに今年度から新たに加わったのが、中学2年生を対象とした3泊4日の「ファームステイ」だ。生徒たちにとってどのような成長の場となったのか、その概要を学年主任(進路指導部副部長)の丸谷貴紀先生と、中2担任(物理教諭)の矢作祐士先生に伺った。


 

都会で育つ子どもたちは、農業や林業、漁業といった第一次産業の現場を知る機会が極端に少ない。しかし、その実態を知らずして、将来の日本を支える真の国際人にはなれない。巣鴨中・高の教員たちはこうした現状を課題に思っていたという。

 

「昨年11月、さまざまなタイミングがうまく揃い、一気にファームステイの構想が現実味を帯びました」と語るのは丸谷貴紀先生だ。

 

「人間の興味関心は、心の成長とともに、自然界と直接関わる第一次産業から、ものづくり、そしてまちの暮らしを支える第三次産業へと、段階を経ながら移っていきます。そこで本校では、中学から高校2年までの間に各産業を学ぶ機会を提供し、視野を広げて自分の進路選択へと繋げてもらう取り組みを、模索・実施してきました。今回の中2生徒のファームステイもこの流れの一環です」(丸谷先生)。

 

ファームステイが行われたのは8月下旬。5つのコースに分かれて各地域に滞在した。

 

「コースは宮城県南三陸町、福島県喜多方市、茨城県北地域、岐阜県高山市、愛知県田原市です。このうち3地域では、さらに小さな班に分かれて現役の農家さんや漁師さんの家にホームステイをして寝食を共にしました。岐阜県と愛知県のコースは宿に泊まって、そこから毎日体験場所に通う方式をとりました。夏野菜の収穫から出荷までを手伝ったり、ワカメの養殖現場や水産加工場を訪ねたり、猟師さんと一緒に山を歩いたり、ニワトリを絞めて命をいただいたりと、生徒たちはそれぞれの場所で忘れられない経験をしてきました」と矢作先生が続ける。

丸谷 貴紀 先生

当事者になれる取り組みを厳選

 

「ファームステイ」のプログラムを組むにあたって、先生達が特に注意したのは、「お客さん扱いの〝いいとこどり”」にならないことだった。

 

「一般的な体験学習ではできない本物の体験の中に身を置くことが絶対条件でした。畑で野菜を収穫してその場で食べて『おいしい。農業楽しいな』といったようなことを経験させたいわけではないんです。3日間、農家で民泊をして、朝から夜まで作業を手伝う。すると、生活がいかに天候に左右されるか、野菜を出荷するまでにどれほど手間がかかるのかなど、現実を目の前に突きつけられます。そうして当事者意識が芽生えることが重要なのです」(矢作先生)。

 

例えば茨城県北地域のコースでは、2日目の早朝、漁を終えた船を漁港で出迎え、仕分けや競りの様子を見た後、魚を全員で捌く予定だった。しかし、台風の影響で船が出航せず、急遽、近隣で水揚げされたアジを捌くことになった。また、野菜の収穫では、大雨の影響で1日野菜の収穫が遅れただけで、出荷に適さないほどキュウリやナスが成長する様を目の当たりにした。あまりの成長ぶりに「生命力の強さに圧倒された」と話す生徒もいた。こうした苦労は、いわゆる「体験ツアー」では見えない部分だ。

矢作 祐士 先生
 

このように毎日異なる体験をしながら産業の現場に身を置いた後、芽生えた当事者意識を基にした振り返りの時間が設けられた。生徒たちは、滞在した地域の第一次産業がどのように成り立っているのか、データもふまえた実態を客観的に分析し、問題点やその解決策について話し合った。

 

「これまでも多くの行事を実施してきましたが、こんなにも真剣で、こんなにも楽しそうな生徒の顔は初めて見ました。振り返りの時間でも、皆が皆、自分の言葉で語る。実体験を経て、自分事になったからこそだと、成長を感じました」と丸谷先生。

 

来年度以降も「ファームステイ」は実施する予定だが、体験内容はより「巣鴨らしさ」を追求し、一人でも多くの生徒の心にささるよう、改良していくという。

 

こうした体験を積み上げた先で、生徒たちには自分の進む道が見えてくる。巣鴨中・高の行事の多さは、ネームバリューや偏差値で進路を決めるのではなく、自分たちが本当に突き詰めたいことを生徒自身に見定めさせるための、教員陣の努力の結晶でもあるのだ。この環境で存分に心を成長させた生徒たちの、今後の活躍が楽しみだ。

STUDENT VOICE

コース:岐阜県高山市|川口 航平さん

酪農や農業、狩猟、岐阜県庁訪問と内容が濃く、猟師さんからクマ問題について学びたくてこのコースにしました。1、2日目は「社会的農業」を実践する農家と酪農家を訪ねました。高い発酵能力をもつNS乳酸菌をウシの飼料に混ぜ、その糞を発酵させた堆肥で農作物を育てるのです。するとウシの糞の匂いが抑えられ、農作物を最小限の管理で生産できます。3日目は猟師さんと山を歩き、農作物のイノシシ被害の深刻さや野生動物駆除の実態を学びました。野生動物との共存には、道路や草刈りなどで人里との境界を明確にすること、毎年一定数の駆除を行なって生態系のバランスを保つことが必要だとわかりました。狩猟は時に命懸けですが、誰かが危険を冒して里山の生活を守っているのだと気づけました。

コース:福島県喜多方市|上山 丈慈さん

自分の生活を支える農業が知りたくて、このコースを選びました。初日は葉ダイコンの種まき、2、3日目は朝6時半からトマトやナス、ネギなどを収穫し、洗って梱包し無人販売所に運びました。最終日は大規模な稲作農家の方から農業の問題点を伺いました。日本は土地が狭く国からの補助も少ないため、農業に儲かるイメージがありません。また、喜多方市の人口が減り続けていて、このままでは30年後には市が存続できなくなると聞きました。農業と市を存続させる解決策を皆で考えましたが、地域の都会化や、補助金アップなどしか思いつきませんでした。僕はこれまで農業がやりたいとは思っていませんでした。でも、今回の経験を通して、間接的にでも農業を支えられたら、日本のためにもなるなと思うようになりました。

コース:愛知県田原市|岩本 武琉さん

毎朝「渥美どろんこ村」に通ってさまざまな体験をしました。特に3日目のニワトリの屠殺体験が印象的でした。ニワトリの首を落として血抜きをして肉にするまで、6人がかりで作業をしました。必死で生きようとする力強さ、命が消える瞬間の感覚などを通して生き物の美しさを感じ、命をもらわないと自分も生きていけないんだ、という現実に向き合いました。手作業での脱穀体験では、ようやく籾殻を剥いても中が空だったりして、お茶碗1杯のお米を得る大変さを思い知りました。また野菜の切れ端や近くのお菓子工場から出た廃棄物を使ってブタのえさを作ったり、ウンチから出るガスを燃料に使う工夫を見たりして、資源を無駄なく利用してきたからこそ人類は生き残れてきたんだな、と実感しました。

取材日:2026.9.19