変革を続ける進学校
AIと里山プロジェクトの両翼で生徒を育てる新教育が始動
桐蔭学園中等教育学校

男女共学化から7年、今年3月に「共学2期生」が卒業した桐蔭学園中等教育学校。教育の三本柱「アクティブ・ラーニング型授業」「探究」「キャリア教育」に基づいた先進的な教育を進めており、大学合格実績も伸びている。2026年から、新たな教育への取り組みを開始。自然と触れ合う里山プロジェクトと、探究学習や教科学習と組み合わせた次世代型のAI教育という異なる領域の教育を展開している。どんな内容なのか。教頭の橋本雄介先生と探究科主任の郡司直孝先生に話を聞いた。
―今年度から新しい教育プログラムが始まりました。
橋本 これからの時代、AI教育は欠かせないため、本校ではさまざまな教科を通じて体系的に学習する体制を整えました。その一方で、人生はテクノロジーのように割り切ることができないところがあると思います。生きがいや価値観、目標などを自分の言葉で表現し、それらを融合した上でどう生きていくのかを考えながら、自分で未来を描いていくことができる生徒を育てたいという思いがあります。そのために、AIとは真逆の“手触り感”がある教育も大切にしていきたい。身体性を重視した里山プロジェクトのねらいはそこにあります。AI教育と里山プロジェクトを両翼に、本校の教育はさらに進化していくと思います。
郡司 自然に触れる機会がある子どもは語彙が豊富な傾向があり、AIを利用する際に自分のイメージした情報を引き出しやすい。AI活用と自然体験を両立することで、自然体験・言語化・AI活用の流れがいい循環を生むと考えています。
―里山プロジェクトはどのような活動ですか。
橋本 桐蔭学園の広大な校地には、絶滅危惧種をはじめ、さまざまな植物が生い茂る豊かな自然環境があり、タヌキなどの動物も生息しています。この自然を体験してもらおうと始めたのが里山プロジェクトです。細かなカリキュラムを設定せずに、里山を豊かな学びの場にするために、活動に取り組んでいます。今年度は竹林の活用に挑戦しています。筍の保存食作りや、竹炭作りを実施。フードドライヤーでじっくりと乾燥させることで旨味が凝縮した筍や、手作りの竹炭でマシュマロを焼く体験は生徒からも好評でした。自然のなかで遊んだ経験が少ない生徒からは、「落ち葉の感触に驚いた」という声もありました。竹炭を活用した鉛筆づくりのアイディアなども挙がりました。生徒たちが思い思いに自然を観察している姿が印象的でしたし、汚れを気にしていた生徒が、だんだん積極的に取り組むようになっていく姿を目にして、教科の学習では得がたい体験になったと感じています。新1年生の参加者が多いので、クラスメイトとの関係構築の場にもなっています。
―里山プロジェクトは今後どのような取り組みを予定していますか。
橋本 現在は希望者を中心に活動していますが、今後は家庭科や技術の授業で里山産の資材を扱うなど、活動の範囲を広げていく予定です。将来的には理科や社会、探究の授業にも生かしていきたいと考えています。
また、社会とのつながりについても理解してほしいという思いがあり、展示会の参加や物品販売など、学外での活動にも力を入れていきます。2027年に地元の横浜市で開催されるGEEEN×EXPO(国際園芸博覧会)にも出展する予定です。自然との関わりについて、生徒自身の言葉で伝えられるようになってほしい。これ以外にも、生徒がやりたいことがあれば柔軟に取り入れていきたいです。
―AI教育では、どのようなことを学びますか。
郡司 これからの社会で活躍するためには、新たなテクノロジーを使いこなす力が必要です。授業の様子を見ていると、既に多くの生徒がAIを利用したことがあるようですが、仕組みを理解しないまま使っている生徒が目につきます。AIは人間が問いかけた内容に応じて回答の質が変化するので、その性質を理解したうえで使いこなせるようにサポートしていきます。
一方で、AIが生徒たちの学びを遮らないように気をつけています。聞けば答えが出てくると勘違いしないように、AIをどのように授業に取り入れるかを教員が検討したうえで指導しています。生徒には注意事項を伝えるだけではなく、よりよい学びのためのAI活用の方法を教科ごとに整理して利活用を促しています。
本校の教員は専門性が高く、担当教科や年代を問わず、新しい取り組みに対して前向きな雰囲気があります。そういった素地が本校のAI教育を支えています。
―AI教育の具体的なカリキュラムを教えてください。
郡司 生徒の学びを深めるために、本校では安全性が高く学習での活用に向いているGoogleのAI「Gemini」を選択しました。安心して利用できる環境を整えるとともに活用がよりよく進むよう独自の教材を作成し、全生徒と全教員に配布しました。またAI教育の指針となる「生成AI活用グランドデザイン」も作成し、「基礎・リテラシー」「実践・深化」「対話・共創」の3つのアプローチからAI活用を学んでいきます。
「基礎・リテラシー」では、探究学習の時間のなかでAIの仕組みやプロンプトの書き方を身につけていきます。AIはアイディア出しのようなクリエイティブな場で使い、一方で研究結果は根拠のあるデータに基づくようにするなど、リテラシーの高い使い方ができるように指導しています。1年次はデジタル端末を使った情報収集や情報整理からスタート。段階的にAIの知識やスキルを積み重ねていき、4年次の論文作成と研究倫理、集大成となる5年次で個人課題のプレゼンテーションにつなげていきます。
「実践・深化」では、探究学習で身につけた活用スキルを、さまざまな授業に応用していきます。学習を支えるツールとして、一部の教科ではAIを授業に導入しています。生徒が自ら学びのプロセスを考える自己調整学習につなげるねらいがあり、従来にはない能動的な学習を実現していきます。6年次のキャリア教育では、既に志望校の情報収集にもAIを利用しました。こういった実例を今後も増やしていきたいですね。
「対話・共創」では、生徒自身がAIやデジタル端末の利用について話し合う機会を設けています。学級委員が利用のルールを作成する「生徒によるルールメイキング」や、生徒・保護者・地域や企業の方々と一緒にテクノロジーの利用について話し合う「六者協議会」を実施。生徒が主体的にデジタル技術と向き合っていけるようにサポートしています。
―最後に桐蔭学園を目指す受験生や保護者に向けて、学園の特徴やメッセージをお願いします。
橋本 桐蔭学園は、生徒の自我の確立に責任を持てる学校を目指しています。教科の勉強はもちろん大切にしていますし、いろんな体験によって内面を育み、人としての器を大きく広げてほしいと思っています。最近は、社会参画への意識が高い生徒が増えていると感じています。里山プロジェクトでも、自主的にGEEEN×EXPOへの参加を検討していた生徒がいるなど、学びを社会とつなげていく取り組みの成果が出始めています。今後も、本校で自分なりの価値観や考え方を育んでいけるようにサポートしていきたいと思います。
郡司 本校には豊かな自然があり、のびのびと過ごすことができるのが魅力です。高校受験がない6年間の環境のなかで、穏やかに毎日を楽しんでいる生徒が多い。探究も1年次から5年次まで取り組んでいるので、探究学習を通して興味があることに積極的に取り組んでいきたい受験生におすすめです。今回の新しい取り組みだけでなく、放課後のアフタースクールや充実した図書館など、面白いものに溢れていてチャンスがいっぱいある学校です。ぜひ一度、見学に来てください。
取材日:2026.5.16
