「生み出す力」「巻き込む力」「形にする力」によって社会を変えていく
リーダーの育成を目指す文化学園大学杉並による新たな教育の挑戦

文化学園大学杉並中学・高等学校

2015年度に日本で初めて日本とカナダの2つの高校の卒業資格を取得できる「ダブルディプロマコース」を立ち上げるなど常に未来を見据えた学びを創出してきた文化学園大学杉並中学・高等学校。2025年度には学校併設の教育研究機関「文化杉並教育イノベーションセンター(BSICE)」を設立し、日本の公教育のイノベーションを目指した教育開発に着手。今年度には、BSICEが中心となって「イノベーションリーダーズ(IL)コース」を高校に新設し、同校のグローバル教育やSTEAM教育、プロジェクト型学習の集大成となる新たな教育をスタートした。ILコースについて、BSICEセンター長を務める染谷昌亮先生に伺うとともに、1期生の生徒である小林さんと埼玉さんの2名からも話を聞いた。


―ILコース立ち上げに至る背景を教えてください。

染谷 BSICEでは「日本では、イノベーションリーダーが育っていない」という課題意識があり、その課題を解決するための新たな教育開発に取り組んでいました。その構想を実践する場として、本校の青井静男校長の熱い思いを受け、2026年度に設立されたのがILコースです。カリキュラムの枠組みはありつつも、具体的な教育内容は生徒とともに作り上げていくという、生徒や保護者の方にとっては未知数の新コースでしたが、多く志望者に集まっていただきました。新タイプ入試の「プロジェクト審査」を経て、中学からの附属生と高入生を併せ32名を1期生として迎えました。

生徒が主体となって取り組む社会と連携したプログラム

―ILコースは「教育課程特例校」指定によって、他に類をみない独自のカリキュラムを実現しているそうですが、具体的にどのような学びに取り組まれていますか?

染谷 科目を3つのカテゴリに分けて運用しています。基礎学力や教養を身につける「基礎科目」、社会で求められる知識や技能を社会と連携して学ぶ「学校設定科目」、そして生徒が自ら興味や課題意識によって取り組む「プロジェクト科目」です。基礎科目は従来の教科学習ですが、教員による講義は10分程度で、あとはプロジェクト型として実施します。また1年次は週に約20コマありますが、学年が上がるとともに減り、学校設定科目やウプロジェクト科目が中心になります。

染谷 昌亮 先生

埼玉 例えば、体育の授業であれば、「クラス全員で卓球のラリーを続けるにはどうすればよいか」という課題に取り組んでいます。今までの体育の授業では主に自分の運動能力を高めるための努力をしていましたが、全員でラリーをするには得意な生徒が苦手な生徒を教える必要があります。その教える過程でも試行錯誤があり、難しいけどすごくおもしろいです。

染谷 学校設定科目は、「エクスプレッション」「サステナビリティ」「アントレプレナーシップ」などのプログラムがあり、BSICEパートナー等のさまざまな企業や自治体、NPO、教育機関など学外の社会人が授業を共創します。1学期は東急グループと連携したフィールドワークを実施しました。

小林 東急グループとのフィールドワークでは、渋谷と二子玉川を訪れ、「働く、住む、遊ぶ」といった街の役割をキーワードに「街づくり」について学びました。それを踏まえて、伊豆高原への研修旅行では、地域課題を洞察し、その解決方法を地元の事業者に提案しました。限られた時間の中で、グループで話し合い、ターゲットを想定してアイデアを出し、データを集め、プレゼンまでまとめ上げるのは本当に大変でしたが、地元の方に興味を持ってもらえる提案ができたことは嬉しかったです。

染谷 プロジェクト科目では、1年次に「ひとと共に生きる」をテーマに世の中を観察し、理想の社会を構想して、その実現に向けた課題を見出し、プロジェクトを生徒それぞれが設計・実践していきます。1学期はその準備として、SEL(社会性と情動に関する学習)などを取り入れ、生徒一人ひとりが「自分は何者か」「自分がどんなものに心が動くのか」を模索しました。また、基礎科目や学校設定科目と連携して、教養や社会への自分なりの視点を身につけています。

埼玉 エクスプレッションでは、演劇のワークショップを経験しました。役になりきって朗読や芝居をするのは小学校の学芸会以来で、最初は恥ずかしさもありましたが、台本に書かれた役柄を自分なりに解釈して演じることで、物語を読むだけでは得られない視点や考え方を学ぶことができました。

小林 先にお話しした東急グループとのフィールドワークでは、さまざまな反省点が見つかりました。例えば課題に取り組む際にはまず全体を俯瞰して時間配分をする必要があることなどです。本格的なプロジェクト科目に取り組むために、多くのことを学びながら、スキルを磨いていきたいです。

右:高1 小林さん(附属生)/左:高1 埼玉さん(高入生)

生徒が築いた実績をもとに新たな教育を社会に広げる

―今後のビジョンについて教えてください。

染谷 ILコースをスタートした理由は「日本の公教育をよくしたい」という思いからです。1期生が高い熱量を持って活き活きと学びに取り組み、成長していく姿で、「しくみさえあれば高校生はどんなことでもできる」と世の中に伝えていきたい。私は、本校のILコースで得た知見やカリキュラムは、希望する学校とどんどん共有していきたいと思っています。そうすることで、日本の教育を変えていくことがマクロなビジョンです。ILコースに対するビジョンとしては、生徒一人ひとりが主役となり、自ら学びの「場」をつくっていってほしい。自ら道を切り拓くことで生徒たちのキャリアはより大きなものになっていくと期待しています。

現在、来年度の入学生に向けた入試であるプロジェクト審査が始まっています。内申や知識重視のペーパーテストではなく、思考力や表現力、協働力を重視した3時間程度のワークショップで、評価内容は受験生にも伝えるため、複数回受験する生徒は、受験するごとに力をつけています。興味を持った方はぜひ授業体験会や説明会に参加してみてください。

STUDENT VOICE

高1 小林さん(附属生)

ILコースでは今まで考えたこともないような切り口で物事を考える機会があり、クラスメイトともたくさん話し合い、毎日新たな視点や考え方と出会っています。ILでは先生に何かを強制されることがなく、むしろ私がやりたいことに対して、「いいじゃん!やってみなよ!」と背中を押してくれます。今の私は、文化や社会、教育、ジェンダー、宗教などたくさんのことに興味があり、将来は海外で学んだり仕事をしたりしたいという漠然としたビジョンしかまだありません。けれど、思考することを止めず、自分なりのペースで一歩ずつやりたいことを見極めていきたいと思います。

左:高1 埼玉さん(高入生)

僕は当初高校入試にあまり積極的ではなかったのですが、母に勧められてILコースの体験会に参加したところ、自分にぴったりくるものを感じました。ILコースで学び始めるとすごい生徒がたくさんいて、仲間と対話することがとても楽しいです。また染谷先生はもちろん、企業や自治体の大人の方と接しながらプロジェクトに取り組む中で、自分には数学などの教科学習の力が足りないことも実感し、「特進コース」の友達に教えてもらうようになりました。僕は中学校から日本の子どもの自殺について課題意識を持っているため、個人探究では教育について深めていきたいと思っています。

取材日:2026.9.18