体験からしか得られない学び、災害と復興を共に考え
理解を深める有志企画「福島スタディツアー」
駒場東邦中学校・高等学校

自主独立の気概と科学的精神を掲げ、豊かな知性と人間性を育む駒場東邦中学校・高等学校。希望者を対象に生徒が本物に触れる数多くの「有志企画」を実施している。そのなかでも「福島スタディツアー」は、高1を対象に震災遺構や復興に関する施設を見学する研修だ。この研修を担当する中学教頭・藤山由彦先生と、ツアーに参加した2人の生徒に話を聞いた。
さまざまな視点から理解を深めるプログラム
生徒が本物に触れる体験を後押しする駒場東邦では、希望者対象の「有志企画」として、最先端技術や自然などさまざまなテーマを学ぶ研修を行っている。なかでも、「福島スタディツアー」は、高1を対象に東日本大震災の被害とその後の復興について学ぶプログラムだ。
まず、6月から7月にかけて事前学習に取り組んだ。福島県観光物産交流協会の教材をもとに、地域のガイドから震災で起きた問題や復興についてのオンライン講義を実施。また、放射線について理科の視点で学ぶワークショップも開催した。生徒たちは、震災によって発生したさまざまな課題について分担して調査し、ガイドブックにまとめた上で研修に臨んだ。
今年は、8月の2泊3日の研修に20人の生徒が参加した。1日目は福島県北部の相馬市で、復興が進むなかで作られた相馬市防災備蓄倉庫やメガソーラー、再建した漁港などを見学。伝承鎮魂祈念館で語り部の話を聞き、津波被害について学んだ。
2日目は双葉町の東日本大震災・原子力災害伝承館で原子力発電所の事故について学習した。浪江町にある請戸小学校周辺では、津波被害の跡が残る校舎や子供たちが避難した高台を見学。続いて大熊町に設置された中間貯蔵施設と構内の熊町小学校校舎を見学した。
当日宿舎帰着後、当時大熊町に住んでいた住民・東京電力・環境省のトークセッションに参加。地域住民の理解が得られないまま中間貯蔵施設の建設が進んだことや、原子力発電所の問題に取り組み続けた15年間の心境など、3者それぞれが思いを語った。講師陣の複雑な思いを、生徒たちは真剣な表情で聞いていたという。このトークセッションについて、藤山先生がこう振り返る。
「原子力発電所の事故は、東京で暮らす生徒たちにとっても身近な問題です。それぞれの立場で経験や重視する内容も異なり、話を伺う順番によって、生徒のもつ印象も変わったようでした。対話を重ねてこられた3者それぞれの話を同時に伺うことで、当時の複雑な状況を生徒に伝えることができました」
対話の大切さは、続く3日目の地域住民との交流でも実感した。立ち入り制限が解除された駅周辺と、いまだ解除されないエリアでは、住民同士にも復興への温度差が生じている。こうした一筋縄ではいかない復興を学ぶこともスタディツアーの役割だという。
「被災した方々の状況を、第三者が完全に理解することは難しい。それでも私たちは、当事者に寄り添う『共事者』として一緒に学び、自分のこととして考えていく必要があります」(藤山先生)
震災教育を次の世代へ継承するために
プログラムの内容は、毎年更新している。福島県では、沿岸部に新たな産業基盤を作る「福島イノベーション・コースト構想」をはじめ、各地で産業の再建に取り組んでいる。今年は水産資源研究所や、アンモニアの製造施設、宇宙ロケット開発に取り組む企業の見学など、震災教育だけでなく研究施設や企業の見学を取り入れ、活性化する福島の産業を学んだ。
震災から15年が経過し、変わりゆく被災地。それでも、震災遺構が災害の記憶を伝える限り、被災地への訪問を続ける予定だという。
「被災地の復興が道半ばであることに加え、今も地震は日本各地で発生しており、震災は身近な問題であり続けています。実際に訪れるからこそ分かることがあります。これからも生徒たちに伝えていくためにスタディツアーを続けていきます」と藤山先生。
最後に、駒場東邦の魅力について藤山先生がこう話す。「『好きこそものの上手なれ』を体現している学校です。教員がそれぞれの専門を生かして生徒の知的好奇心を引き出す授業や行事を展開しており、生徒たちも全力で応えてくれています。生徒の意欲や関心に応える環境を、これからも受け継いでいきたいと思います」
STUDENT VOICE
参加生徒が語る「福島スタディツアー」の学び
―参加のきっかけと印象に残ったことを教えてください。
多賀谷 これまで家族で東北地方を旅行することがありましたが、福島は訪れたことがなく、福島で起きたことを知りたいと思って参加しました。研修では、校舎の2階まで津波が来た浪江町の請戸小学校や、中間貯蔵施設内にあり生徒の勉強道具がそのまま残っている熊町小学校を見て、震災被害の大きさに衝撃を受けました。また、宇宙ロケット技術の開発をしている企業では、大きな目標に向かって行動し続ける姿に心を動かされました。
中島 震災のときに避難所の支援をしていた家族から話を聞いたことがあり、震災について学びたいと思い参加しました。津波被害を受けた語り部の方が、つらい経験を未来のために語ってくれる姿が印象的でした。バスで帰還困難区域の周辺をまわったときに、立ち入りが制限されているエリアがまだあることを改めて実感し、衝撃を受けました。また、私は魚に興味があるので、福島の水産業が当時置かれた状況や、現在研究が進む養殖業について学んだことも印象に残っています。
―実際に参加してみてどうでしたか。
多賀谷 ニュースを見て、復興はかなり進んでいると思っていました。ところが現地を訪れると、復興が追いついていない部分や、地元の方のさまざまな思いが分かりました。写真で見ていた福島とは印象が大きく違い、「百聞は一見にしかず」を実感しました。多くの方に、実際に現地へ行ってみてほしいです。
中島 災害関連死の心のケアについて学んだことや住民・企業・行政が原子力発電所の事故について語るトークセッションを通じて、それぞれつらい経験や異なる背景を持っていても、対話を重ねることが大切だと感じました。悲しい話題を避けてしまっては、対話が生まれないと思います。福島に行ったことがない人も、まずは復興に進む様子や福島の美味しい食べ物から知ることを始めて、福島を訪れてほしいです。
―最後に、受験生や保護者にメッセージをお願いします。
多賀谷 駒東は生徒の自主性を重んじてくれる学校です。多様な学校行事に加えて、部活動も有志の生徒で立ち上げることが可能で、私自身もけん玉同好会を立ち上げて仲間と一緒に取り組んでいます。また、教科のおもしろさを教えてくれる先生方も魅力です。勉強したことは、決して無駄になりません。応援しています。
中島 駒東は、生徒が興味関心を伸ばすきっかけを与えてくれる学校だと思います。授業や行事のなかで、勉強で学んだ知識と体験がつながる瞬間がたくさんあります。先生方も親身に、熱心に指導してくれます。受験で忙しい時期だと思いますが、色々なものに興味を持って頑張ってください。
取材日:2026.9.24
